デザイナーの作業範囲
デザイナーとして案件に関わる際、どのように携わっていますか?
・クライアントとデザイナーの間に営業担当者や広告代理店がいる
・ライターやカメラマンから素材が届きデザインを作る
・アートディレクターが指示する通りのデザインを作る
案件に対して、さまざまな関わり方があるかと思います。
しかし、時には、「これはデザイナーの仕事なのだろうか?」と思える、作業範囲外のことをやらなければならないこともありませんか?
かくいう私も、先日、この作業範囲が明確でなかったため混乱をきたす事態が発生しました。
それは、あるお客様の会社概要ならぬ、ブランドブックを作成していた時のことです。
ちなみに、ブランドブックとは、会社のコンセプトやビジョンを社内外に理解してもらい、浸透させる目的のパンフレットのことです。
その時は、デザイナーである私とクライアントの間に、「ブランドコンサルタント」なる人が入っていました。
そのコンサルタントは、クライアントの会社の立ち上げ当初から関わっており、その方が提唱するメソッド(考え方)で作成したブランドブックのページ割りが手書きの一枚もので届きました。
ページ割りには、「会社の歴史(地域に根ざした会社)」「社長の哲学(人間性が伝わるように)」「お客様の声」といった、大まかな内容が書かれています。
もともと、ブランドコンサルタントから「ライターなんぞは不要」と言われていたということもあり、それぞれのページに載せる具体的な文章は、クライアントとブランドコンサルタントが何度も話し合って考え、文章はコンサルタントがしっかりとまとめるのだろうと思っていました。
私は、内容については一歩引いた立場で関わり、主にデザインを作成する役割だという認識でした。
いざ、制作に入るとクライアントから直接こちらに文章データが届きました。
文章を見ると、てにをはも整えておらず、内容も支離滅裂。
会社の良さも表現されていません。
会社の歴史を伝えるページに至っては、「00年創業」「00年移転」「00年法人化」いうただの年号の羅列です。
これでは地域に根ざした会社であることなど伝わらないのは、デザイナーの私でもわかります。
このクライアントはブランドブックを初めて作るので、文章を書きなれてないため、こうなるのも仕方ありません。
どうやら、ブランドコンサルタントはクライアントに対して、それぞれのページに載せる内容、必要な文章などまったく指示をせず、クライアントはどうすればいいのか迷っていたとのこと。
一向に具体的な指示がブランドコンサルタントから届かないので、クライアント自らページ割りを見ながらページの内容を考え、素人ながらに文章を作ったとのこと。
私は、進捗報告を兼ねて、これまで届いたクライアントの文章をどうにか入れ込み、仮のデザイン案を作りました。
それを見た、コンサルタントからは「クライアントから届いた文章をデザインする際に、内容がそぐわなければ、デザイナーがクライアントに指示を出して、文章を書いてもらえ」と言われました。
ブランディングを頼まれたのは私ではないので、これはさすがに私の作業範囲外です。
このブランドコンサルタントのメソッドをよく知らない私が、ブランドブックの各ページに載せる具体的な内容を決めたり、クライアントに修正を提出。それをまたブランドコンサルタントにお伺いを立て、修正が発生。
こうなると、クライアントにとっては、二度も修正をくらって、誰の指示に従えば良いのか混乱することになるでしょう。
また、あらかじめ私が提出していた見積もりには「デザイン制作費」しか計上していなかったので、もしこの作業まで私がやるのであれば、もっと事前に打ち合わせに参加し、取材を重ね、コンサルタントのメソッドやクライアントに関して、深く理解しなければならず、そうなると、ディレクションやライティングの費用も当然、計上しなければなりません。
ということで、各ページの具体的な内容を決め、文章を考えるのはブランドコンサルタントの役割で、デザイナーの作業範囲外だと反論することになり、なんとも嫌な気分になったのでした。
ちなみに、HAT TOOL DESIGNでは仕事を受ける際、コンサルタントや広告代理店などを間に挟まずにお客様と直接やりとりすることがほとんどです。
例えば、パンフレットを作成する際は、お客さんと打ち合わせを重ねてページ割りを考え、時には、中に入れ込む文章を書き、写真を撮り、イラストも描きます。
デザインを制作する以外に、営業やライティング、撮影、イラスト作成、ちょっとしたWEBサイトのコーディング、はたまた、ビジネスのやり方や集客まで食い込むなんてこともしばしばです。
そうなると、ちょっとしたコンサルタントやマーケッターの役割を担うことにもなります。
デザイナーといえども、たくさんの役割を担うことがあります。
しかし、大きなプロジェクトとなると、デザイナー、ライター、コーダー、ディレクター、プロデューサーなど、関わる人が多く作業は細分化されます。
細分化される分、自分の担当作業に集中できる反面、一足飛びにプロデューサーやクライアントからデザイナーへ直接指示が届くことで、作業が増えてしまい、理不尽さを感じることもよくあります。
ということで、クライアントとデザイナーの間に誰かが入る場合、制作する流れや、テキスト文章、写真データなど素材の届き方、作業範囲などの確認が、行き違いを未然に防ぐ秘訣です。