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インパクトのあるチラシデザインと集客のその後
前回お届けした「インパクトのあるチラシを作成して欲しい」という歯科医の話の後日談です。
院長の顔写真は載せない。
患者の声も取れず、載せない。
治療料金の内容説明はなく料金のみ掲載。
よくある質問も不要。
ここまで掲載内容が絞られてしまうと、歯科医院の特徴を出しにくく他との差別化ができません。
今や歯科医院はコンビニエンスストアより数が多く、飽和状態と言われています。
デザイン性だけでインパクトを出したチラシでは、必ずしも集客に結びつかないのではないかと思ったのです。
チラシの反応がなければ、デザイナーの責任だと言われかねません。
この内容を前回、配信した後、読者からいくつか感想をいただきました。
その内容は、
「こういう方はよくいます!デザイナーの私はいつもモヤっとしながら対応していますが、HAT TOOL DESIGNさんはどう対応したのですか?」
というものでした。
今回は対応方法をお届けします。
この歯科医が、集客の基本中の大基本である「顔写真を載せる」ことをなぜ拒むのかを考えてみました。
おそらく、「恥ずかしい」からだと思いました。
その気持ちは分からなくもありません。
しかし、多くの方は「背に腹は変えられない」と最終的には顔出しされます。
顔出ししなければ、集客もできず、そのため、患者の声がとれません。また、依頼できるような信頼関係のある患者がいません。
この歯科医の場合は、プライドがあり、「そんなことまでいちいちチラシで説明しなくても歯科技術があれば集客はできるもの。デザイナーの技術でかっこよくてインパクトのあるチラシを作成し、目に止まるようにして欲しい」と思っているのではないかと私は感じました。
この歯科医の心の問題で、今までの経験などから、このような思考が形成されたのだと思いました。
よって、いくら説明の仕方をあれやこれや変えても、説明の時間を費やしても、ご自身がプライドを捨てない限り、デザイナーである私が心を変えるのは至難の技。
現に、これまで同じように説明した結果、納得して考えを変えたクライアントはたくさんいらっしゃるので、こればかりは、一度、壁に当たってご自身で原因を考えていただくしかありません。
ということで、ある程度のところで見切りをつけて(だいたい2、3度目のメールか電話のやりとりで)、「集客には結びつかないかもしれません」と伝えた上で、この歯科医のいう通りに見た目だけを重視して作ります。
私にとっては、もう、割り切りです。
おそらく、集客はうまくいかず、作成した後、この歯科医からのリピートは二度とないと思います。
そのようなものを最初から分かっていて作るのは、正直、苦痛でしかありませんが、仕方ありません。
さて、ビジネスでうまくいく人、いかない人の両者がいます。
うまくいく人の傾向として、人の乗せ方、巻き込み方がうまいのだと思います。
しっかり話を聞いてもらえるので、アイデアも次々に展開し、楽しくなるので、こちらも親身になって、ついつい提案してしまいます。
時間もないのに作業が増えてしまい、気がつけば私自身の首をしめていたということもあります。
その反対に、うまくいかない人の場合、聞く耳をもたないということが分かっているので
結果的にはこちらからの提案も減り、親身になりにくくなります。
おそらく、人の意見を聞き入れられないことは他で数多くあり、それが積み重なって、頑固になっているはずで、商売がうまく行き難いだろうと思います。
前回の話題に対して、質問をいただいた方への明確な答えが出せずに申し訳ないのですが、
私としては、気持ちを切り替えて、集客をあまり考えずに、デザインすることにしたとお答えします。
商売がうまくいかない人と、うまくいく人の二極化が進んでいるような気がして、世の中の縮図を見ているような、思いになるのでした。
インパクトのあるチラシデザインと集客
チラシを作る際、
A.誰もが知っている大手企業の誰もが知っている商品のチラシ
B.小さな会社やお店が販売する商品のチラシ
このどちらなのかによって、チラシ作成の考え方が異なります。
Aの場合、そもそもその企業を知っているというだけでも、信頼度は高く、その上、知っている商品となると、もう、商品の説明はなくても十分に信頼はされているわけです。
広告賞に入賞するようなインパクトだけ狙ったデザインやアート作品のようなイメージ的なデザイン、そして、気の利いたキャッチコピーだけでいいのだと思います。
しかし、小さな会社やお店の商品となると、そういうわけにいきません。
人はよく知らないものを買わないものです。
まずは、その会社やお店を知ってもらうこと、そして商品を知ってもらうことが重要です。
そのためには、説明が必要になります。
先日、歯科医院と打ち合わせをし、「インパクトのあるチラシ作成」を依頼されました。
「分かりました」と答えたものの、先方からの条件は、院長の顔写真は載せたくない、患者の声も取れないし、載せられない、治療料金も説明はなく料金のみ、よくある質問もいらないとのこと。
掲載するのは、「このようなことでお困りの方は当院へお越しください!」という、虫歯、インプラント、歯周病といった症状の羅列と「痛くない治療を目指します!」というキャッチフレーズ、住所&地図など基礎情報だけです。
空いた空間には、信頼・安心感のあるイラストを入れたいとのこと。
本当に困りました。
今や歯科医院はコンビニエンスストアより多く、飽和状態だと聞きます。
インパクトのある目立つデザインというだけで、はたして人が集まるのでしょうか。
インパクトがあると目に止まって、とりあえずはチラシを手にとるかもしれません。
しかし、せっかく手に取っても中身が薄く、きちんと説明がないと、安心感・信頼感が持てず、来院するまでには至らないと思います。
内容の薄さをデザインの力で信頼できるものに引き上げるには、会社や商品そのものの知名度がなければ、不可能に近いと思っています。
今回のような場合、チラシで集客できなければ、後々、デザインが悪い、デザイナーが悪いともなりかねません。
その前にきちんと認識のズレを擦り合わせる必要があると思いました。
デザイナーの作業範囲
デザイナーとして案件に関わる際、どのように携わっていますか?
・クライアントとデザイナーの間に営業担当者や広告代理店がいる
・ライターやカメラマンから素材が届きデザインを作る
・アートディレクターが指示する通りのデザインを作る
案件に対して、さまざまな関わり方があるかと思います。
しかし、時には、「これはデザイナーの仕事なのだろうか?」と思える、作業範囲外のことをやらなければならないこともありませんか?
かくいう私も、先日、この作業範囲が明確でなかったため混乱をきたす事態が発生しました。
それは、あるお客様の会社概要ならぬ、ブランドブックを作成していた時のことです。
ちなみに、ブランドブックとは、会社のコンセプトやビジョンを社内外に理解してもらい、浸透させる目的のパンフレットのことです。
その時は、デザイナーである私とクライアントの間に、「ブランドコンサルタント」なる人が入っていました。
そのコンサルタントは、クライアントの会社の立ち上げ当初から関わっており、その方が提唱するメソッド(考え方)で作成したブランドブックのページ割りが手書きの一枚もので届きました。
ページ割りには、「会社の歴史(地域に根ざした会社)」「社長の哲学(人間性が伝わるように)」「お客様の声」といった、大まかな内容が書かれています。
もともと、ブランドコンサルタントから「ライターなんぞは不要」と言われていたということもあり、それぞれのページに載せる具体的な文章は、クライアントとブランドコンサルタントが何度も話し合って考え、文章はコンサルタントがしっかりとまとめるのだろうと思っていました。
私は、内容については一歩引いた立場で関わり、主にデザインを作成する役割だという認識でした。
いざ、制作に入るとクライアントから直接こちらに文章データが届きました。
文章を見ると、てにをはも整えておらず、内容も支離滅裂。
会社の良さも表現されていません。
会社の歴史を伝えるページに至っては、「00年創業」「00年移転」「00年法人化」いうただの年号の羅列です。
これでは地域に根ざした会社であることなど伝わらないのは、デザイナーの私でもわかります。
このクライアントはブランドブックを初めて作るので、文章を書きなれてないため、こうなるのも仕方ありません。
どうやら、ブランドコンサルタントはクライアントに対して、それぞれのページに載せる内容、必要な文章などまったく指示をせず、クライアントはどうすればいいのか迷っていたとのこと。
一向に具体的な指示がブランドコンサルタントから届かないので、クライアント自らページ割りを見ながらページの内容を考え、素人ながらに文章を作ったとのこと。
私は、進捗報告を兼ねて、これまで届いたクライアントの文章をどうにか入れ込み、仮のデザイン案を作りました。
それを見た、コンサルタントからは「クライアントから届いた文章をデザインする際に、内容がそぐわなければ、デザイナーがクライアントに指示を出して、文章を書いてもらえ」と言われました。
ブランディングを頼まれたのは私ではないので、これはさすがに私の作業範囲外です。
このブランドコンサルタントのメソッドをよく知らない私が、ブランドブックの各ページに載せる具体的な内容を決めたり、クライアントに修正を提出。それをまたブランドコンサルタントにお伺いを立て、修正が発生。
こうなると、クライアントにとっては、二度も修正をくらって、誰の指示に従えば良いのか混乱することになるでしょう。
また、あらかじめ私が提出していた見積もりには「デザイン制作費」しか計上していなかったので、もしこの作業まで私がやるのであれば、もっと事前に打ち合わせに参加し、取材を重ね、コンサルタントのメソッドやクライアントに関して、深く理解しなければならず、そうなると、ディレクションやライティングの費用も当然、計上しなければなりません。
ということで、各ページの具体的な内容を決め、文章を考えるのはブランドコンサルタントの役割で、デザイナーの作業範囲外だと反論することになり、なんとも嫌な気分になったのでした。
ちなみに、HAT TOOL DESIGNでは仕事を受ける際、コンサルタントや広告代理店などを間に挟まずにお客様と直接やりとりすることがほとんどです。
例えば、パンフレットを作成する際は、お客さんと打ち合わせを重ねてページ割りを考え、時には、中に入れ込む文章を書き、写真を撮り、イラストも描きます。
デザインを制作する以外に、営業やライティング、撮影、イラスト作成、ちょっとしたWEBサイトのコーディング、はたまた、ビジネスのやり方や集客まで食い込むなんてこともしばしばです。
そうなると、ちょっとしたコンサルタントやマーケッターの役割を担うことにもなります。
デザイナーといえども、たくさんの役割を担うことがあります。
しかし、大きなプロジェクトとなると、デザイナー、ライター、コーダー、ディレクター、プロデューサーなど、関わる人が多く作業は細分化されます。
細分化される分、自分の担当作業に集中できる反面、一足飛びにプロデューサーやクライアントからデザイナーへ直接指示が届くことで、作業が増えてしまい、理不尽さを感じることもよくあります。
ということで、クライアントとデザイナーの間に誰かが入る場合、制作する流れや、テキスト文章、写真データなど素材の届き方、作業範囲などの確認が、行き違いを未然に防ぐ秘訣です。